2012年 03月 18日
ちいさなまち(その5) |
ただ、最初にこの町に感激した学者だけは、町の将来をとても心配しておりました。「このままでは、この町にはにぎわい草がすっかりなくなってしまいます」と学者は音楽家と作家の家に来て、苦情をいいました。実はこのころ音楽家も心の底では、「最近ずいぶん人が多くなって騒がしくなってきたな。演奏会を開いても、最初の頃ほど私の曲が、ぴったりとした町ではなくなってきたようだ」と思っていましたので、学者の話を聞いて「それは大変!」と思ったのでしたが、友達の作家が「どうか私の作品を気に入って、町に住みはじめた人を追い出すようなことはしないでください」と、学者に泣いて頼みましたので、そんな自分の気持ちは隠して、黙っていたのでした。町にはいくらか、学者の心配ごとについて真剣に耳を傾ける人もいましたが、町に住みはじめたばかりの多くの人たちは、彼の話をあまりまじめに聞こうとはしませんでした。まだ花の丘はひとつ残っていましたし、そんな話にとりあうことで、自分が町から出て行くことになるのは嫌だったからです。学者は怒って町から出て行き、二度とその町に来ることはありませんでした。
(つづく)
(つづく)
by kenzo_stsk
| 2012-03-18 00:07
| ・「路字」

