武者ゼミレポート(その４）

その４、「下北沢に住む高齢者」という論文について。

この論文は「演劇」「音楽」など「若者のまち」と称される下北沢が、実は75歳以上の高齢者の多いまちであることに着目。下北沢に住む高齢者が抱えている問題やまちへの希望を、インタビューなどを通して明らかにしながら、見落とされがちな視点によってまちの抱える課題を浮彫りにすることを試みている。

論文では、高齢者にとって下北沢の不便な点は「若者のまち化」が進む中での騒音や雑踏、またチェーン店化が進む中で日頃の生活必需品を扱う店が激減していることなどであり、そんな不便さを下北沢の交通アクセスが良いという利点が補っていることを指摘、最後に「若者のまち」という特質に偏らず、生活者にとって大切な住環境を整えるという視点を大切にしながらまちづくりをする必要性を訴えて終わっている。

さて、この論文に関しては、少数へのインタビューのみを基に論を展開していることがとても気になったけれど、書かれていることは至極真っ当なことであり、異議を唱えるつもりはありません。しかし、せっかく自由な発言が許される学生という身分であるのだから、もっとつっこんだ問題提起を試みてもらいたかったという点で少し残念さを感じました。また、この論文では、「高齢者」という切り口で語っているのですが、僕にはこの言葉をそのまま「生活者」と置き換えることも可能であるように感じました。生活に必要なものが手に入れにくいまちに変わっていって困っているのは、高齢者に限ったことでないように思うのです。

先日、ピアノを習い始めた娘のために楽譜を買いにいきました。ふと気がついたら、下北沢には今楽器屋さんがありません。保育園の先生に「どこで楽譜を買っていますか？」と聞いてみたら、「大抵渋谷か新宿だけど、三軒茶屋には一軒品揃えの良い店がありますよ」と教わって事なきをえたのでしたが、これだけ楽器を抱えた若者が多い町に楽譜を売っている店が一軒もないということはとても不思議なことだと気がつきました。

つまりこの論文で扱っている問題は、駅前再開発のようなことを起爆剤として、まちの改変がおこなわれるときには、どこの町でも起こりうる一般的なことであり、「ではそのような不便がおきないようにまちを改変していくためには一体なにが不足しているのか？」を解き明かすことこそが、まさに全国から望まれていることなのだと私は思います。

お互い、もう少しつっこんで考えてみる必要がありそうですね。